吉本ばなな「白河夜船」愛読者が、安藤サクラ主演映画「白河夜船」をレビュー!ネタバレあり感想。

昔から吉本ばななさんの「白河夜船」が好きです。

吉本ばななさんの小説は全部好きですが、「白河夜船」がとにかく一番好き。暗記するほど何度も読んでいます。

2015年に映画化されたのは知っていましたが、観る気持ちになれなかったので、気になりつつも未視聴でした。

今回Huluの新着映画に入っていたため、初めて鑑賞したので感想を書いていきたいと思います!

あくまで私の感想ですので「わかる~」とか「その解釈は違うと思うな~」とか思いながら読んでいただけたら嬉しいです。

原作あらすじ(ネタバレあり)&原作の好きな場面

主人公の寺子には、岩永さんという恋人がいます。

岩永さんには交通事故で植物状態になっている妻がいるため、不倫の状態です。

妻が目を覚ます可能性はもうなく、親族との付き合いや病院のことなど現実的な諸々のことに疲れ切っている岩永さんと、大好きな恋人に眠り続けている妻がいてどうにもならないということに疲れ始めている寺子。

二人の想いは正真正銘本物なのに、状況がそれを許しません。

そんな中、寺子の親友、しおりが自死してしまいます。

“添い寝”という変わった仕事をしていたしおり。

夜に呑み込まれるように死を選び、寺子の前から消えてしまいました。

親友が死んだことを、寺子は岩永さんに言えずにいます。

仕事をしていない寺子はいつしか眠る時間が増えてゆき、恋人の電話にも気づかず尋常でない時間眠り続けるようになりました。

ある日寺子の前に不思議な女性が現れ、「アルバイトをしなさい」と告げます。

「あなただけが、私のせいで疲れているような気がして…」

「ごめんなさいね。」

「私が誰だか、あなたわかるでしょう?」

と言って女性は消えてしまいます。

その人は、岩永さんの奥さんの若い頃の姿。

寺子は眠い体に鞭打って数日間のアルバイトをし、疲れ切った体に強い心が戻ってきたことを感じます。

人生に打ち寄せる波と、小さな蘇生の物語。

ラストは、岩永さんと花火を見ている場面で終わります。

後で、二人で美味しいうなぎを食べに行くことを楽しみに、強い心で未来を思いながら。

原作の好きなシーン①「また寝てたんでしょう」

電話で「また寝てたんでしょう」と言う岩永の声が好きな寺子。

待ち合わせの時間をメモしながら「そんなことより私の好きな『また寝てたんでしょう』をもういっぺんやってほしい、アンコールだ」と思いながら足で床を踏み鳴らす真似をするシーン。

恋人の好きな仕草とかセリフってありますよね。

寺子の「好き」が伝わってくる可愛らしいシーンです。

原作の好きなシーン②しおりの出てくる夢

大好きな親友と暮らしていた頃の夢です。

ふたりで花瓶を探し、しおりが白いチューリップを活けているところを見守る寺子。

ひたすらに穏やかで優しく、明るい陽射しが感じられるシーンです。

その後ハッと目覚めると、岩永さんと過ごす現実の夜なのですが、ばななさんの文章でその落差がズンと伝わってきます。

原作の好きなシーン③岩永さんとの出会いの場面

出会いは寺子のアルバイト先でした。

短期のバイトだったこともあり、仕事が増えると面倒なので手を抜いて働いていた寺子。

ある日自分のミスのせいで休日出勤をすることになり、久々に本気を出してすごい早さで作業していたら、それを岩永さんに見られてしまいます。

「……やればできるんだね、とか言う気にもならないよ。」

と笑い転げる岩永さん。

これまであえてなまけて働いていた寺子が、誰もいないオフィスでのびのび気持ちよく働く場面が爽快です。

ばなな作品では、一生懸命も怠慢も、愛情も嫉妬も、すべて人としてあって当たり前の感情としてフラットに描かれています。

「キッチン」にも、

「と、いくらでもあげられる面倒を思いついては絶望してごろごろ寝ていたら」

という一文があって好きだったなあ。

原作の好きなシーン④「今って、朝の5時なんだわ」

もうここが一番好きと言っても過言ではない、ここだけ読み返したりするくらい好きです。

眠りに憑りつかれた寺子が寝ても寝ても眠くて、起きたら周りが薄暗い。

もう夕方ね、と空ろに思って外を見ると新聞配達の少年がいて、朝の5時だと気づくシーンです。

早朝なのでしんと静かで、外の家々も灯りがついていなくて、東の空がぼんやりと明るい、その描写。

夕方だと思ったら朝だった、そこには恐怖と驚きと、でもさらなる眠気があって混沌としている。

夜明けの青の中で。

この空気感が大好きなんですけど、ばななファンはみんなそうなのかなあ、他の人にも聞いてみたいものです。

映画「白河夜船」について

冒頭のシーンは寝ている寺子

この一瞬で早くも「ああああ、なぜ」という気持ちになりました。

なぜなら、寺子が仰向けで大の字で(腕は体の横だったけど)布団もかけずに寝ていたから。

こんなに堂々と死体のように寝られたのでは、情緒も葛藤も何もありません。

白黒で撮られていたので、プロローグというか象徴的な意味合いがあったのかと思いますが、あの寝方は私にはちょっと理解できませんでした。

そして本編が始まり、岩永さんからの電話に目を覚ます寺子。

「また寝てたんでしょう」

井浦新さんの声はとても良かったです。

低めで落ち着いていて、岩永さんのイメージに合っていました。

そして寺子はといえば、ヒステリックに足を揺らし「もう一度また寝てたんでしょうって言って」とうわごとのように言っちゃってます。

なんだ、この病んでる感。目もうつろでコワイ。

原作の寺子は、「はい、はい」と普通に待ち合わせの約束をしつつ、見えないところで足を踏み鳴らします。

そこには、岩永さんに会える嬉しさがあり、好きなセリフをアンコール!という寺子らしい甘えとユーモアがあるはずなのです。

でもそれは、岩永さんには言わない。

先の見えない恋の不安に押しつぶされそうでも、岩永さんにも、親友にもそれを見せない。

それが寺子の矜持ではありませんか。

寺子の服装

どうしていつもがばっと胸元のあいたレースのタンクトップやキャミソールなんでしょうか。

寝る時もタンクトップとショーツ。

なんならその格好でベランダに出て洗濯物も干しています。

そんな人います?

外出するときも、その上にカーディガンなど羽織るだけ。スカートは履きますけど。

そして、どうしていつもノーブラなのか。

黒のマニキュアも剥げてるし。

監督には、愛人はこういう格好、という偏見でもあるのでしょうか。

しおり役は谷村美月さん

原作ではふっくらしたおっかさんイメージで描かれているしおりですが、映画では谷村美月さんが演じていました。

ふんわりした雰囲気で品がよくて、にこにことしたしおりのイメージに合っていたと思います。

しおりの夢のシーンは、原作では白いチューリップでしたが映画では白いカラーになっていました。

本来は口の広い花瓶だと落ち着かないから口の狭い花瓶に活け替える、というシーンでしたが、カラーは口の広い花瓶に活けられていましたね。

まあご愛嬌、という感じです。

映画でも、しおりの夢のひたすら明るいイメージと、そのあとの夜の暗さとの落差は良かったなあと思いました。

「朝の5時」のシーン

私の好きな「朝5時」のシーン。

例によってタンクトップとショーツの寺子が、眠気に勝てず呻きながらタンクトップを脱ぎ捨てて眠り込みます。

脱ぐ必要あります?

原作では「ブラウスとスカートをずるずると床に脱ぎ捨てて、ベッドに入った」とあります。

それは、眠るのに邪魔だったりしわになるから脱ぐんですよね。

いつもタンクトップで寝てるのに、それを脱ぐ必要ありますか?

そして仰向け万歳のポーズで盛大に上半身をさらしながら目覚めます。

寺子が寝てばかりいるのは、精神のバランスが崩れかけていて、眠りに逃避しているという意味合いもあると思うんです。

眠っていると辛いことを考えずに済むから。

原作でも、岩永さんとのドライブの帰り道に別れが辛くて凍りつきそうになっていたけれど、ことりと眠ってしまって起きたら着いていてホッとした、という描写があります。

「ふとんは冷んやりと心地よく、」という表現も。

そこから読み取れるのは、これまで「眠り」は確かに味方で、眠りに逃避することでバランスを保てていた面もあるということ。

その「眠り」が、だんだん日常を侵食してくる怖さです。

逃避行動ですから、外界から守ってくれる布団にもぐり込んで眠りの世界に、というイメージが私の中にありました。

しかしパンイチで布団もかけずに大の字で寝続ける映画の寺子は、「眠りに憑りつかれている」かもしれませんが、眠りはただただ呪いのように寺子を蝕んでいるだけで、日常から逸れていく微妙な怖さは感じられません。

そして、映画の朝の5時は明るかった。

全然、青くありません。

考えてみれば、7月の日の出は4:30頃。

5時はもう青くないのですね。

そこは原作の色合いを大事にして、青くしてほしかったです…。

不思議な少女役は紅甘(ぐあま)さん

朝5時の公園で出会う不思議な少女を演じるのは、紅甘さん。

漫画家の内田春菊さんの次女です。

女優をしているのは知っていましたが、この映画に出ていたとは。

昔内田春菊さんのエッセイ漫画を読んでいたので、「あらまあ娘②ちゃん、こんなに大きくなって…」という気持ちになりましたが。

説明的な長台詞がほとんどという難しい役どころでしたが、自然な感じでわりとよかったです。

アルバイトは街頭アンケート

原作では展示会のコンパニオンでしたが、映画では街頭アンケートでしたね。

なんでもいいけど、また胸元が大きく開いたコスチュームです。

これはまあ、男性向けのアンケートのようなので仕方ないのかもしれませんが。

どうも過敏になってしまいます。

バイトが終わって帰ってきた寺子は、フェミニンなブラウスとスカートを身につけていました。

なんだ、持ってるんじゃん…。

安藤サクラさんと井浦新さん

安藤サクラさんは好きな女優さんです。

演出の問題で納得はいきませんでしたが、安藤さんは体当たりで演じてくださったのだと思います。

岩永さんを見つめたり笑いかけるシーンなどは気持ちが伝わってきてよかったです。

井浦新さんはとてもよかった。イメージぴったりでした。

わがままを言えば、もう少しだけ後ろ髪の長さが欲しかったですね。

監督の若木信吾さんは写真家で、映画監督作品は全部で3本。

「白河夜船」が3本目で、以降は映像作品は手掛けていないようです。

写真家なので、映像にはこだわって撮られたんだとか。

浜辺のシーンなど雰囲気がありましたね。

若木信吾さんは、現在も写真家として活躍していらっしゃいます。

映画「白河夜船」まとめ

原作のセリフがほぼそのまま使われているところが、ファンとしては嬉しかったです。

寺子は病んでる感が出すぎでしたが、映画は映画、と考えるとそれもいいのかな。

原作の、難しい状況の中の恋で、世界から取り残されたようにお互いしかいなくて、淋しさに支えられてじんとしびれるような感じ。

そんな空気感はちょっと物足りなかったな、と思います。

なんだか不倫で満たされなくて苦しくて、みたいなところがクローズアップされていると感じました。

ばなな作品の映画化は難しいですね。

お読みいただきありがとうございました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA